「トールからだ」
思いがけない言葉に、一瞬、呼吸が心臓が止まった。
あまりの衝撃に、身体の全てが機能を止めてしまったかのようだ。
目の前に真っ暗な闇が落ちてくる。
- L A S T M E S S A G E - scene 2
「ミリアリア!しっかりしろ!!」
カガリが叫びながらミリアリアの頬を軽く叩いた。
「あ・・・、カガリ・・・?」
「しっかりしろ、ミリアリア。立てるか?」
我に返るとわたしは腰が砕けて座りこみそうになっていて、カガリに腕をつかまれてようやく身を起こしている状態だった。足にうまく力が入らない。体の震えが止まらない。だめだ、このままじゃ。
そう思った瞬間、身体が浮いた。
「アスラン!?」
カガリの声で自分を抱き上げる暖かい腕の持ち主を知った。おそるおそる顔を上げると、そこには大きめのサングラスで隠した端正な顔立ち。少し長めの青みを帯びた黒髪。
・・・アスラン・ザラだった。
「大丈夫か?・・・どこか休めるところに運ぼう」
「・・・リビングのソファへ・・・」
サングラスに隠されて表情は見えないが、その声は心配そうだった。おそらく車からわたしたちの様子を伺っていたのだろう。わたしが倒れたのを見てすっ飛んできたに違いない。一瞬で車を飛び出して来たろうに、まったく息を切らしていない。さすがコーディネーターよね、と変なことに感心しつつそのままアスランの腕に身をゆだねた。
リビングのソファにおろしてもらい、身体を横たえる。頭がグラグラして、身体の震えが止まらない。勝手に奥のキッチンに入ったカガリがミネラルウォーターをグラスに注いで持ってきてくれたので、ありがたく口にする。ひとくちふたくちと、ゆっくり口に含んで飲み込むと少し落ち着いた。震えも収まり、異様に早まっていた鼓動も収まってきたようだ。
「・・・ごめん、落ち着いた。もう大丈夫」
「無理しないほうがいい。前置きもなく急に言い出したカガリが悪い。心の準備もさせないで、すまなかった」
なんとか顔を上げて言ったのだが、アスランにあっさりと切り返されてしまった。
途端にカガリがしょぼんとなる。
「すまない・・・、ミリアリア。少しでも早く伝えたかったから、つい」
「ううん、いいの。気にしないで。・・・本当にトールの手紙なの?」
カガリが弾かれたように顔を上げて、うん、と大きく頷いた。大切そうに取り出した手紙をミリアリアの手の上に載せる。カガリは彼女の手を手紙と一緒に握りながら口を開いた。
「島でストライクを回収した時に、パイロット用のサバイバルキットがひとつ発見されたそうだ。当然ストライクのものと思われていたんだが、開けたらこの手紙が入っていた・・・。オーブ軍には該当する者がいなくて、ずっと保管されていたんだ。サバイバルキット自体は傷みが激しくて、処分されてしまったけど・・・」
カガリの大きな琥珀の瞳を揺れ、痛みと哀しみをはらみながらも強い意思を持ってわたしを見つめる。
「今朝キサカから知らされて、どうしてもわたしの手からミリアリアに渡したくて、それで来たんだ」
「カガリ・・・」
「わたしたちは・・・お父様や首長たちはオーブの民を守れなかった・・・。だから・・・もうこんなことにはならないように、わたしはオーブを絶対に守る。そう頑張るから・・・」
瞳を揺らし唇を震わせるカガリをただじっと見ることしかできなかったけれど、カガリと手の中の手紙を等分に見て、わたしは思った。
このトールの手紙はヘリオポリスに始まる悲劇の象徴だ。そしてオーブが、カガリたちが守れなかったものを明らかにして、彼女たちに突きつける。戦争は終わったけれどその事実はカガリを苦しめ、きっと見るのも辛いに違いない。それでも自分の負うべき責任に立ち向かう覚悟をもって、わたしのもとに来てくれた。
カガリは強い。強くあろうとしている。
だから、わたしも・・・強くならなければ。
なんとか自分の想いをカガリに伝えたいと思い、できるかぎりの笑顔を彼女に向けて言った。
「ありがとう、カガリ。トールの何かが残ってるなんて、思いもしなかったらびっくりして・・・。とっても嬉しい・・・・。本当にありがとう、カガリ」
ちゃんと笑って言えたのだろう。カガリも瞳を揺らしながら微笑んでくれた。顔を上げて、今度はアスランに言った。サングラスを外して傍らに立つ彼と視線をあわせて、笑顔で。
「・・・それから、アスランも」
アスランは驚いた表情をしていたが、ふっとはにかんだように笑った。
「君は強いな・・・・・・」
「ううん、みんなのおかげよ。そしてトールの・・・」
突然、カガリががばっ!と抱きついてきた。予想してなかった動きに、カガリを上にしてわたしはそのままソファに倒れこんでしまった。痛いくらいに抱きしめるカガリが耳元で叫ぶ。
「ありがとう、ミリアリア・・・!わたしは頑張る。ミリアリアたちが幸せになれるように、絶対だ」
「カガリ・・・」
カガリの背に腕をまわし、一度きゅっと抱き締め返してから身体を離し、彼女と視線をあわせて悪戯っぽく笑ってみせた。
「あなたもね、カガリ。代表が幸せじゃなかったら、国民も幸せじゃないんだから・・・・」
するとカガリはカーーッと顔を赤くして、「いやわたしよりも国をまずたてなおさないと」とか「まあアスランもそばにいてくれるし」とかゴニョゴニョ言うので、思わず笑ってしまった。こういうところは同じ年の女の子だなあ、とくすくす笑いながら思う。
「ミリアリア・・・お前・・・」
はっとした表情でわたしを凝視するカガリとアスランの視線に気が付き、そこで初めてこんな風に声を上げて笑うのは久し振りだと思い出した。そうだ。トールの死から後、アークエンジェルでこんな風に笑ったことなんかなかった。
そう思ったとき、なにかが記憶をかすめたように感じたけれど、それは捕まえる間もなく消え去ってしまった。・・・なんだったんだろう。
「ね、もうこうやって笑えるんだから。わたし」
「・・・うん。ミリアリアは笑っているほうがずっといい。」
「俺に言われても嬉しくないだろうが・・・、その、君は笑っている方が可愛いと思う・・・。オーブの、南国の花みたいだ」
たとえばブーゲンビリアとか。
え、とカガリとわたしは同時にアスランを振り仰ぎ、顔を赤らめながらそれでも至極真面目な表情の彼を見つけた。わたしは呆気にとられて口をポカンと開けてしまい、カガリは大口を開けて笑い出してしまった。
「あっははは、アスラン・・・、お前もそんな台詞言えるんだな!ははっ・・・あはははは・・、す、すごい口説き文句だぞ、それは!!」
「笑うなっ・・・!カガリ!!」
お腹を抱えて大笑いするカガリの首根っこを捕まえて、大きな笑い声を立てる口をふさごうと必死なアスラン。わたしはそんな二人を見ているしかなくて。でもそのうちだんだん可笑しくなってきて。
だってアスランがあんなこと言うなんて。
ついにはわたしもカガリと一緒になって、お腹を抱えて大笑い。業を煮やして出て行ってしまったアスランの背中を指差してヒイヒイ言って笑い続けたのだった。
previous ← | → next
最初はシリアスだったのに、最後はギャグ?になってしまった・・・。
トールの手紙まで到達できなかった・・・。ああ、こうしてダラダラ長くなていく。 (2006.1.10)
☆NOVEL☆へ戻る
|